
「せっかく制度があるのに、申請できない…」
助成金を申請できない原因の多くに、基本的な労務管理の整備不足があります。
とくに、生産性向上のための設備投資を支援する「業務改善助成金」では、労働条件や賃金の管理体制が整っているかが厳しく問われます。
助成金を申請するには、労務管理の基本が整っていることが前提になります。
つまり助成金を申請できるレベルの労務管理を意識することで、適法な状態になり、従業員にとって安心して働ける職場の土台が整うことになります。
採用も定着も会社の土台が整っていなくてはうまくいきません。
今回は、経営者の皆様が優先的に見直すべき5つの実務ポイントを解説します。
1.労働条件通知書:雇用の内容を正確に伝える
ポイント解説:
新しく従業員を雇うときには、「いつから、どこで、どんな条件で働くのか」を文書で示すことが法律で義務づけられています。これが「労働条件通知書」です。
パート・アルバイトでも同じで、雇用形態に関わらず交付しなければなりません。
記載が必要な主な項目:
- 雇用期間(定めがある場合)
- 就業場所・業務内容
- 労働時間・休憩・休日
- 賃金の額・支払い日
- 退職に関すること(解雇の事由など)
助成金との関係:
業務改善助成金では、誰の賃金をどれだけ上げたかを正確に証明する必要があります。
その前提として、「労働条件が明確であること」が求められるため、労働条件通知書が整っていないと申請が難しくなります。
2.出勤簿:働いた時間を正確に記録する
ポイント解説:
従業員が「いつ働き始めて、いつ終わったか」を記録するのが出勤簿です。
タイムカードや勤怠管理ソフト、手書き記録でも構いませんが、客観的に証明できる形で記録することが重要です。
注意すべき点:
- 休憩時間や残業時間も含めて正確に
- 休日出勤や遅刻・早退も記録に反映
- 勤怠と給与計算が一致していること
助成金との関係:
業務改善助成金の申請時には、該当する従業員の出勤記録の提出が必要になる場合があります。
記録が不完全だったり、曖昧な運用だと、労働時間の把握ができず、賃金支払いの根拠が認められません。
3.賃金台帳:給料の支払いを見える化する
ポイント解説:
賃金台帳とは、従業員一人ひとりに対して、どのくらい働いて、いくら支払ったかを記録する帳簿です。
労働基準法で整備が義務付けられており、以下の内容を記載します。
主な項目:
- 氏名
- 賃金計算期間
- 基本給・手当・控除の金額
- 支給総額・支払日
- 勤務日数・労働時間・残業時間
助成金との関係:
業務改善助成金では、賃金を実際に引き上げた証拠として賃金台帳の提出が必須です。
また、一定期間後にも継続的な賃金支払いを確認されるため、整った帳簿管理が求められます。
4.就業規則:職場ルールの土台を作る
ポイント解説:
10人以上の従業員を雇っている事業場では、「就業規則」の作成と労基署への届出が法律で義務づけられています。
これは、労働時間、休暇、退職、服務規律など職場のルールを明確にするための文書です。
記載例:
- 始業・終業時刻、休憩・休日
- 賃金の支払い方法・昇給の取扱い
- 懲戒や退職、解雇に関する規定
助成金との関係:
業務改善助成金では、事業場内最低賃金を「就業規則や賃金規程等」で定めることが求められます。
この記載がなければ、制度利用ができません。小規模事業所でも「就業規則に準じた文書」を整備することで対応が可能です。
5.その他:有給休暇と健康診断も忘れずに
ポイント解説:
労働関係法令違反があると助成金は受給できません。以下の点も法的に義務づけられていますので確認しておきましょう。
- 年5日の有給休暇取得:
正社員・パートに関わらず、年10日以上の有給が付与される従業員には、毎年5日は必ず取らせる義務があります。 - 年1回の健康診断:
常時使用する従業員には、年1回以上の定期健康診断の実施が義務です。
助成金との関係:
これらが実施されていないと、労働関係法令違反と判断され、業務改善助成金を含むあらゆる助成金が不交付となる恐れがあります。
まとめ
労務管理は、「従業員を守るため」だけでなく、経営にプラスとなる助成金の活用にも直結します。
とくに業務改善助成金では、
- 労働条件通知書の整備
- 出勤簿・賃金台帳の記録
- 就業規則の整備と見直し
- 有給休暇や健康診断の実施
が適切に行われていることが必須条件です。
労務管理というと、「やらなければならない義務」や「手間のかかる作業」と感じるかもしれません。
しかし、実はこれは企業の成長と従業員の満足度を高めるための“土台づくり”なのです。
しっかりと整備された労務管理は、
- 従業員に安心感と信頼を与え、
- 離職率を下げ、
- 組織の風通しをよくし、
- そして業務改善助成金のような支援制度を最大限に活用する力になります。
つまり、労務管理は「コスト」ではなく「未来への投資」。
「制度が整った働きやすい会社だね」と、従業員にも地域にも選ばれる企業を目指して、しっかりと土台を整えてみませんか?